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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)129号 判決

東京都豊島区池袋三丁目八番一三号

原告

乘金俊

右同所

原告

乘金弘子

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被告

豊島税務署長 篠塚新一

右指定代理人

伊藤一夫

信太勲

阿部武夫

岩崎広海

江口庸祐

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告乘金俊(以下「原告俊」という。)の請求の趣旨

1  被告が原告俊に対してした次の各処分を取り消す。

(一) 平成三年三月六日付けの昭和六一年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額三一〇万一二五二円、納付すべき税額一万五九〇〇円を超える部分及び同年二月二七日付けの重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)

(二) 平成三年二月二七日付けの昭和六二年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額三〇〇万六六四九円、還付金の額に相当する税額四万二九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)

(三) 平成三年二月二七日付けの昭和六三年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額二一八万三五三五円、還付金の額に相当する税額三万四九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  原告乘金弘子(以下「原告弘子」という。)の請求の趣旨

1  被告が平成三年二月二七日付けで原告弘子に対してした昭和六二年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額を一七三万九五〇〇円、還付金の額に相当する税額一二万七八五〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

三  原告らの請求の趣旨に対する被告の答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  原告俊に対する課税処分等の経過

(一) 原告俊は被告から所得税の青色申告の承認を受けたものであるところ、昭和六一年分ないし昭和六三年分(以下「係争各年分」という。)の所得税につき次のとおり確定申告をした。

総所得金額

納付すべき税額

昭和六一年分

三一〇万一二五二円

一万五九〇〇円

昭和六二年分

三〇〇万六六四九円

▲四万二九〇〇円

昭和六三年分

二一八万三五三五円

▲三万四九〇〇円

(▲は還付金の額に相当する税額)

(二) 被告は、原告俊に対し、平成三年二月二七日、係争各年分の所得税の各更正を行い、さらに同年三月六日、昭和六一年分所得税について納付すべき税額を増額する更正をしたが、右各更正(昭和六一年分については右増額更正)に係る総所得金額、納付すべき税額は次のとおりである。

総所得金額

納付すべき税額

昭和六一年分

三二〇五万二五一〇円

一二八三万〇一〇〇円

昭和六二年分

二六五九万七二〇四円

九四一万九三〇〇円

昭和六三年分

二九一八万二九六七円

九八九万一四〇〇円

(三) また、被告は、原告俊に対し、平成三年二月二七日、次のとおり係争各年分について重加算税を賦課する旨の決定(昭和六一年分については平成三年三月六日付けの変更決定により減額された後のもの)をした。

昭和六一年分 三八三万四〇〇〇円

昭和六二年分 三二九万三五〇〇円

昭和六三年分 三四七万二〇〇〇円

(四) 原告俊は、各更正及び賦課決定を不服として、平成三年四月三〇日、被告に異議申立てを行ったところ、被告は、同年七月三一日、各処分の一部を取り消し、税額等を次のとおり変更する決定をした。

(1) 昭和六一年分

総所得金額 二七五八万八三八七円

納付すべき税額 一〇四五万八八〇〇円

重加算税額 三一二万九〇〇〇円

(2) 昭和六二年分

総所得金額 二四三八万〇一五〇円

納付すべき税額 八四二万一八〇〇円

重加算税額 二九四万〇〇〇〇円

(3) 昭和六三年分

総所得金額 一三六一万〇四三二円

納付すべき税額 二八九万二〇〇〇円

重加算税額 一〇二万二〇〇〇円

(五) 原告俊は、右一部取消し後の各処分を不服として、平成三年八月一四日、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、平成五年三月三一日、各賦課決定について、次の各過少申告加算税相当額を超える部分はいずれも取り消されたが、各更正については審査請求が全部棄却された。

昭和六一年分 一〇一万九〇〇〇円

昭和六二年分 一二四万四〇〇〇円

昭和六三年分 四一万三〇〇〇円

2  原告弘子に対する課税処分等の経過

(一) 原告弘子は、被告から所得税につき青色申告の承認を受けたものであるところ、昭和六三年二月一五日、昭和六二年分所得税につき次のとおり確定申告をした。

総所得金額 一七三万九五〇〇円

還付金の額に相当する税額 一二万七八五〇円

(二) 被告は、平成三年二月二七日、原告弘子に対し、次のとおり昭和六二年分所得税の更正を行うとともに過少申告加算税を賦課する決定をした。

総所得金額 一〇五七万六〇六三円

納付すべき税額 二〇四万六七〇〇円

過少申告加算税額 三〇万〇五〇〇円

(三) 原告弘子は、右更正及び賦課決定を不服として、平成三年四月二四日、被告に異議申立てを行ったところ、被告は、同年七月三一日、右処分の一部を取り消し、税額等を次のとおり変更する決定をした。

総所得金額 八〇四万四八一八円

納付すべき税額 一一九万三四〇〇円

過少申告加算税額 一七万三〇〇〇円

(四) 原告弘子は、一部取り消された後の右処分を不服として、平成三年八月五日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、平成五年三月三一日、棄却の裁決がされた。

3  しかし、異議決定、審査裁決により一部取り消された後の原告らに対する所得税の各更正(以下、原告俊に対するものは「昭和六一年分更正」などといい、原告弘子に対するものは「原告弘子に対する更正」という。)及び加算税を賦課する旨の各決定(以下「賦課決定」という。)には、いずれも原告らの所得金額を過大に認定するなどの違法があるから、原告らはその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、3は争う。

三  原告俊の請求に係る抗弁(課税処分の適法性)

1  昭和六一年分更正及び賦課決定の適法性

(一) 不動産所得の金額 五一万八七五二円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(二) 配当所得の金額 五九万一五〇〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(三) 給与所得の金額 一九九万一〇〇〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(四) 雑所得の金額 二七四六万一九三七円

(1) 原告俊の株式及び転換社債の売買状況

原告俊は、昭和六一年中に大和證券株式会社(以下「大和證券」という。)新宿支店に委託して、別表1-1ないし1-4のとおり、株式及び転換社債を売買した。

(2) 株式の売買回数等

昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法九条一項一一号イ及び昭和六三年政令第三六二号による削除前の所得税法施行令二六条一項によれば、営利を目的とした継続的行為と認められる有価証券の売買による所得(以下「売却益」という。)は課税所得となり、昭和六二年政令第三五六号による改正前の同令二六条二項は、その年中にした株式の売買回数が五〇回以上で、その売買株数の合計が二〇万株以上という要件を充足すると、その年中の有価証券の売却益は営利を目的とした継続的行為によるものとみなされる旨規定している。

ところで、証券市場においては、これを開設する証券取引所の会員(証券業者)以外の者が売買をすることができないから(証券取引法一〇七条)、一般投資家が市場を利用して有価証券の売買を行う場合には、会員である証券業者に委託することになり、証券業者は自己の名で委託者の計算において有価証券の売買を行うこととなる。この場合、委託者(一般投資家)が行った株式の売買回数は、証券業者が市場で行った売買回数によるのではなく、委託者と証券業者との間の委託契約(注文が実行され市場で実際の売買が行われたものに限る。)の個数によって計算されるべきである。

また、株式の売買の委託契約は、約定成立の日時、売付け又は買付けの別、銘柄、株数及び価格を要素とするから、これらの要素によって特定されるところが委託契約の個数となる。また、株式の売買の委託においては、「売付け」と「買付け」、あるいは「現物取引」と「信用取引」とでは、経済事象として全く異なる売買の委託であるから、同一日時に委託された「売付け」と「買付け」、あるいは「現物取引」と「信用取引」とは別個の委託契約を構成する。ただし、同一日時に二銘柄以上の株式の売付け又は買付けを一括して委託した場合は、経済事象としては包括的な注文を行うひとつの委託契約があるとして差し支えない。

原告俊は大和證券新宿支店に対し別表13-1ないし13-4のとおり株式の売買を注文しているのであって、その全部が売買の都度注文を行う委託契約に基づき行われており、委託契約の個数を基準として認められる昭和六一年分の株式の売買回数は、別表1-1ないし1-4に記載のとおり一八一回であり、その売買株数は合計一〇一万二〇〇〇株であった。

(3) 売却益の所得区分

所得税法は一〇種類の所得区分を設けているが、原告俊の有価証券の売買による所得は、利子所得・配当所得・不動産所得・給与所得・退職所得・山林所得のいずれにも該当しないことが明らかであり、その売買には反復継続性があるから、譲渡所得にも一時所得にも該当しない。

そして、〈1〉原告俊は、係争各年当時、日本フランチャイズ総合リース株式会社に勤務する給与所得者で、有価証券の取引に専従していたわけではなく、また、これに専従する使用人も置いていなかったこと、〈2〉有価証券の取引を行うための事業所等の施設を有していないこと、〈3〉証券会社の担当者の勧誘により有価証券の取引内容を決定することもあり、すべてを自ら企画遂行したわけではないこと、〈4〉有価証券の取引に際して事業者が通常備え付けるべき現金出納帳などの帳簿を作成していないこと、〈5〉所得税法二二九条所定の事業開始の届出を所轄税務署長に提出しておらず、有価証券の取引に係る所得を申告しなかったこと、〈6〉有価証券の取引は価格の変動を利用して売買差益を稼ぐという投機性の強いもので、本来的に事業として行うにはなじみ難い性格を有する行為であることに照らせば、原告俊の有価証券の売買に係る所得は、事業所得ではなく、雑所得に該当するというべきである。

(4) 売却益の額

ア 収入金額 一億八七七五万二九五二円

原告俊は、昭和六一年中に、現物取引により別表5-1及び5-2の「現物取引」欄の番号一ないし四九に記載の銘柄及び数量の株式を、別表5-3の「転換社債」欄の番号五〇ないし五二に記載の銘柄及び数量の転換社債を(以下、別表5-1ないし5-3の「現物取引」欄及び「転換社債」欄の各取引を、その通し番号により「損益表番号一」などと表記する。)、それぞれ同表の「売却価額」欄記載の価額で売却したところ、その売却価額の合計は一億七一三七万六五七三円である。

また、原告俊の昭和六一年中の信用取引に係る決済損益の状況は別表5-1ないし5-3の「信用取引」欄記載のとおりであり、その決済益の合計額は一六三七万六三七九円である。

右収入金額の合計は一億八七七五万二九五二円である。

イ 必要経費 一億六〇二九万一〇一五円

原告俊が昭和六一年中に売却した損益表番号一ないし五二に記載の株式及び転換社債の取得価額(購入価額に取引手数料等を加えた額であり、以下も同様である。)の合計は一億六〇二九万一〇一五円であり、銘柄ごとの取得価額の算出根拠は、別表9-1ないし9-14のとおりである。

ウ なお、新日本製鐵(別表1-1の約定日昭和六一年三月三一日分、別表1-2の同年七月一一日分及び八月一三日分)及び富山化学工業(別表1-1の約定日昭和六一年三月一日分)の二銘柄の取引については、売買回数の計算においては算入しているが、取得価額が不明のため損益計算から除外した。

エ したがって、原告俊の昭和六一年分の株式及び転換社債の売却益の額は、二七四六万一九三七円である。

(五) 納付すべき所得税額

(1) 総所得金額

右(一)ないし(四)の所得金額の合計は三〇五六万三一八九円である。

(2) 所得控除額

原告俊の確定申告に係る一六八万六〇二四円から配偶者控除額三三万円を差し引いた一三五万六〇二四円が所得控除額となる。

原告俊の配偶者である原告弘子の昭和六一年分の総所得金額は一八二万六〇六〇円であり、原告弘子は配偶者控除の対象とならないから(昭和六二年法律第九六号による改正前の所得税法二条三三号)、原告俊は配偶者控除を受けることができない。

(3) 課税総所得金額(資産合算課税の特例の適用)

原告俊の昭和六一年分の課税総所得金額の計算に当たっては、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法第二編第四章第一節(世帯員が資産所得を有する場合の税額の計算の特例、以下「資産合算課税の特例」という。)の各規定が適用される。

右各規定によれば、主たる所得者の総所得金額及び合算対象世帯員の資産所得(利子所得、配当所得及び不動産所得)の合計額から、所得税法七二条一項による雑損控除額及び同法七三条一項による医療費控除額を控除した金額が、一五〇〇万円を超える場合には、合算対象世帯員の資産所得は主たる所得者の所得とみなして、主たる所得者の納付すべき税額を算定することになる。

原告俊は主たる所得者に該当し、原告弘子は配当所得を有する合算対象世帯員に該当するから、原告俊の課税総所得金額は、右(1)の総所得金額三〇五六万三一八九円に原告弘子の配当所得四七万九〇六〇円を加算した三一〇四万二二四九円から、右(2)の所得控除額一三五万六〇二四円を差し引いた二九六八万六〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額である。以下、課税総所得金額について同様である。)となる。

(4) 所得税額

別表11のとおり、資産合算課税の特例によるあん分税額一二二二万八九二〇円から、原告俊の確定申告に係る源泉徴収税額一五万円を差し引いた一二〇七万八九〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額である。以下、所得税額の計算について同様である。)である。

(六) 過少申告加算税額

昭和六一年分更正によって新たに納付すべきこととなった税額一〇四四万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て後の金額である。以下、過少申告加算税の計算について同様である。)に、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六五条一項に基づき、一〇〇分の五の割合を乗じて算出した五二万二〇〇〇円と、同条二項に基づき、右一〇四四万円のうち五〇万円を超える部分の税額九九四万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四九万七〇〇〇円との合計額一〇一万九〇〇〇円である。

(七) まとめ

右のとおり、原告俊の昭和六一年分の総所得金額は三〇五六万三一八九円であるところ、総所得金額を二七五八万八三八七円とした昭和六一年分更正にはその所得を過大に認定した違法はなく、更正及び賦課決定に係る税額も所得税法及び国税通則法に従って適法に算出された金額の範囲内である。

2  昭和六二年分更正及び賦課決定の適法性

(一) 不動産所得の金額 三六万六二四九円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(二) 配当所得の金額 四〇万九〇〇〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(三) 給与所得の金額 二二三万一四〇〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(四) 雑所得の金額 二一四〇万三三八七円

(1) 株式の売買状況及び売買回数

原告俊が昭和六二年中に大和證券新宿支店に委託して行った株式の売買状況は、別表2-1ないし2-3のとおりであり、その株式の売買回数は一五三回、その売買株数は合計六四万七四五〇株であったから、既に述べたとおり、その売却益は、雑所得として課税所得となる。

(2) 売却益の額

ア 収入金額 一億七五二九万七二二八円

原告俊は、昭和六二年中に、現物取引により別表6-1及び6-2の「現物取引」欄の番号五三ないし九三に記載の銘柄及び数量の株式を(以下、別表6-1及び6-2の「現物取引」欄の各取引を、その通し番号により「損益表番号五三」などと表記する。)、それぞれ同表の「売却価額」欄記載の価額で売却したところ、その売却価額の合計は一億六六八〇万〇一四四円である。

原告俊の同年中の信用取引に係る決済損益の状況は別表6-1及び6-2の「信用取引」欄記載のとおりであり、その決済益の合計額は八四九万七〇八四円である。

右収入金額の合計は一億七五二九万七二二八円である。

イ 必要経費 一億五三八九万三八四一円

原告俊が昭和六二年中に売却した損益表番号五三ないし九三に記載の株式の取得価額の合計は一億五三八九万三八四一円であり、銘柄ごとの取得価額の算出根拠は別表9-1ないし9-14のとおりである。

ウ したがって、原告俊の昭和六二年分の株式の売却益の額は、二一四〇万三三八七円である。

(五) 納付すべき所得税額

(1) 総所得金額

右(一)ないし(四)の所得金額の合計は二四四一万〇〇三六円である。

(2) 所得控除額

原告俊の確定申告に係る一八四万七一一四円から配偶者控除額三八万円及び配偶者特別控除額八万二五〇〇円を差し引いた一三八万四六一四円が所得控除額である。

原告弘子の昭和六二年分の総所得金額は八四九万五六三〇円であり、原告弘子は右各控除の対象とならないから(昭和六二年法律第九六号による改正前の所得税法二条三三号、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の同法八三条の二)、原告俊は右各控除を受けることができない。

(3) 課税総所得金額

原告俊の昭和六二年分の所得税額の算定に当たっては、昭和六一年分におけると同様に資産合算課税の特例が適用され、原告俊の課税総所得金額は、右(1)の総所得金額二四四一万〇〇三六円に原告弘子の配当所得三九万二五〇〇円を加算した二四八〇万二五三六円から、右(2)の所得控除額一三八万四六一四円を差し引いた二三四一万七〇〇〇円となる。

(4) 所得税額

納付すべき税額は、別表12のとおり、資産合算課税の特例によるあん分税額八五五万九四六六円から、原告俊の確定申告に係る源泉徴収税額一二万三三〇〇円を差し引いた八四三万六一〇〇円である。

(六) 過少申告加算税額

昭和六二年分更正によって新たに納付すべきこととなった税額八四六万円に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した八四万六〇〇〇円と、同条二項に基づき、右八四六万円のうち五〇万円を超える部分の税額七九六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した三九万八〇〇〇円との合計額一二四万四〇〇〇円である。

(七) まとめ

右のとおり、原告俊の昭和六二年分の総所得金額は二四四一万〇〇三六円であるところ、総所得金額を二四三八万〇一五〇円とした昭和六二年分更正にはその所得を過大に認定した違法はなく、更正及び賦課決定に係る税額も所得税法及び国税通則法に従って適法に算出された金額の範囲内である。

3  昭和六三年分更正及び賦課決定の適法性

(一) 不動産所得の金額 四四八五円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(二) 配当所得の金額 二二万七二五〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(三) 給与所得の金額 一九五万一八〇〇円

原告俊の確定申告に係る金額である。

(四) 雑所得の金額 一六九九万一六〇七円

(1) 株式の売買状況

原告俊は、昭和六三年中に大和證券新宿支店に委託して株式の売買を行っていたほか、三洋証券株式会社(以下「三洋証券」という。)新宿支店に委託して次男である乘金重光(以下「重光」という。)名義で、和光証券株式会社(以下「和光証券」という。)新宿支店に委託して長男である乘金信之(以下「信之」という。)名義で、それぞれ株式の売買を行っていた。

(2) 株式の売買回数等

原告俊が昭和六三年中に大和證券新宿支店に委託して行った株式の売買状況は、別表3-1及び3-2のとおりであり、三洋証券新宿支店に委託して重光名義で行った株式の売買状況は、別表3-3のとおりであり、和光証券新宿支店において信之名義で行った株式の売買状況は、別表3-4のとおりである。

右によれば、株式の売買回数は、大和證券新宿支店におけるものが五八回、三洋証券新宿支店におけるものが四五回、和光証券新宿支店におけるものが一五回で、その合計は一一八回であり、その売買株数は、大和證券新宿支店におけるものが三四万一一〇〇株、三洋証券新宿支店におけるものが一六万株、和光証券新宿支店におけるものが九万株で、合計五九万一一〇〇株である。

(3) 昭和六三年政令第三六二号による削除前の所得税法施行令二六条二項によれば、昭和六三年中にした株式売買の回数が三〇回以上で、その売買株数が一二万株以上という要件を充足すると、その売却益は営利を目的とする継続的行為によるものとして課税所得となる。

(4) 売却益の額

ア 収入金額 一億〇三八〇万九三〇三円

原告俊は、昭和六三年中に、現物取引により別表7-1、7-3及び7-4の「現物取引」欄の番号九四ないし一一八に記載の銘柄及び数量の株式を(以下、別表7-1、7-3及び7-4の「現物取引」欄の各取引を、その通し番号により「損益表番号九四」などと表記する。)、それぞれ同表の「売却価額」欄記載の価額で売却したところ、その売却価額の合計は八九六〇万五九三四円である。

原告俊の同年中の信用取引に係る決済損益の状況は別表7-1ないし7-4の「信用取引」欄記載のとおりであり、その決済益の合計額は一四二〇万三三六九円である。

右収入金額の合計は一億〇三八〇万九三〇三円である。

イ 必要経費

原告俊が昭和六三年中に売却した損益表番号九四ないし一一八の銘柄及び数量の株式の取得価額の合計は八四二九万八九五〇円であり、銘柄ごとの取得価額の算出根拠は別表9-1ないし9-14のとおりである。

ウ したがって、原告俊の昭和六三年分の株式の売却益の額は、少なくとも一六九九万一六〇七円を下らない。

(五) 納付すべき税額

(1) 総所得金額

右(一)ないし(四)の所得金額の合計は一九一七万五一四二円である。

(2) 所得控除額

原告俊の確定申告に係る金額一三六万六八〇九円である。

(3) 課税総所得金額

右(1)の総所得金額一九一七万五一四二円から右(2)の所得控除額一三六万六八〇九円を差し引いた一七八〇万八〇〇〇円である。

(4) 所得税額

納付すべき税額は、右(3)の課税総所得金額に税率を乗じて算出した所得税額五二二万三二〇〇円から、原告俊の確定申告に係る配当額の五パーセントである一万一三六二円及び源泉徴収税額九万三七八二円を差し引いた五一一万八〇〇〇円である。

(六) 過少申告加算税額

昭和六三年分更正によって新たに納付すべきこととなった税額二九二万円に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した二九万二〇〇〇円と、同条二項に基づき、右二九二万六九〇〇円のうち五〇万円を超える部分の税額二四二万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一二万一〇〇〇円との合計額四一万三〇〇〇円である。

(七) まとめ

右のとおり、原告俊の昭和六三年分の総所得金額は一九一七万五一四二円であるところ、総所得金額を一三六一万〇四三二円とした昭和六三年分更正にはその所得を過大に認定した違法はなく、更正及び賦課決定に係る税額も所得税法及び国税通則法に従って適法に算出された金額の範囲内である。

四  原告弘子の請求に係る抗弁(課税処分の適法性)

1  配当所得の金額 三九万二五〇〇円

原告弘子の確定申告に係る金額である。

2  給与所得の金額 一三四万七〇〇〇円

原告弘子の確定申告に係る金額である。

3  雑所得の金額 六七五万六一三〇円

(一) 原告弘子は、昭和六二年中に、大和證券池袋支店に委託して、別表4のとおり株式の売買を行った。

(二) 株式の売買回数等

原告弘子と原告俊は夫婦であり、同一場所で株式の売買を共同して行っていたこと、原告弘子の昭和六三年中における株式の売買状況は別表17のとおりであり、その全部が売買の都度注文を行うという方法によっていたことからすれば、昭和六二年中における原告弘子の株式の売買も、原告俊のそれと同様に、売買の都度注文を行う委託契約に基づいて行われていたものと考えられる。そうすると、原告弘子の昭和六二年分の株式の売買回数を原告俊と同様に数えると、別表4のとおり五九回であり、その売買株数は合計二九万七二〇〇株となるから、その売却益は、原告俊の場合と同様に、雑所得として課税されることになる。

(三) 売却益の額

(1) 収入金額

原告弘子は、昭和六二年中に、別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六の銘柄及び数量の株式を同表の「売却価額」欄記載の価額で売却したところ、その売却価額の合計は九四四九万五〇四三円である。

原告弘子の同年中の信用取引に係る決済損益の状況は同表の「信用取引」欄記載のとおりであり、その決算益の合計額は一七七万九七八三円である。

右収入金額の合計は九六二七万四八二六円である。

(2) 必要経費

原告弘子が昭和六二年中に売却した別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六の銘柄及び数量の株式の取得価額の合計は八九五一万八六九六円であり、銘柄ごとの取得価額の算出根拠は、別表10のとおりである。

(3) したがって、原告弘子の昭和六二年分の株式の売却益の額は、六七五万六一三〇円となる。

4  納付すべき所得税額

(一) 総所得金額

右1ないし3の合計八四九万五六三〇円である。

(二) 所得控除額

原告弘子の確定申告に係る七四万三〇〇〇円である。

(三) 課税総所得金額

課税総所得金額の計算に当たっては、既に述べたように、資産合算課税の特例が適用され、原告弘子の配当所得三九万二五〇〇円は主たる所得者である原告俊の所得とみなされ、その課税総所得金額は、右(一)の総所得金額八四九万五三六〇円から配当所得三九万二五〇〇円及び右(二)の所得控除金額七四万三〇〇〇円を差し引いた七三六万円となる。

(四) 所得税額

納付すべき所得税額は、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法八九条一項により右(三)の課税総所得金額に税率を乗じて算出した税額一四三万五五〇〇円に、別表12のとおり、資産合算課税の特例によるあん分税額八万六四五九円を加えた金額一五二万一九五九円から、原告弘子が確定申告の際に控除した源泉徴収税額一九万三一〇〇円を差し引いた一三二万八八〇〇円となる。

5  過少申告加算税額

原告弘子が納付すべき税額一四五万円(別表18のⅠ欄)のうち、昭和六三年政令第三六二号により削除前の所得税法施行令二五六条により、正当事由が認められる金額一万円(主たる所得者である原告俊の雑所得につき更正をしたことに伴い合算対象世帯員である原告弘子のあん分税額が増加したことにより変動した金額)を除いた一四四万円(別表18のⅡ欄)に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇を乗じて算出した一四万四〇〇〇円と、同条二項に基づき、右一四四万円のうち五〇万円を超える部分の税額に一〇〇分の五を乗じて算出した四万七〇〇〇円との合計額一九万一〇〇〇円である。

6  まとめ

右のとおり、原告弘子の昭和六二年分の総所得金額は八四九万五六三〇円であり、総所得金額を八〇四万四八一八円とした原告弘子に対する更正には所得を過大に認定した違法はなく、更正及び賦課決定に係る税額も所得税法及び国税通則法に従って適法に算出された金額である。

五  原告俊の請求に係る抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)ないし(三)は認める。

(二)  同1(四)のうち、原告俊が昭和六一年中に大和證券新宿支店に委託して別表1-1ないし1-4のとおり株式及び転換社債の売買を行ったこと、原告俊が同年中に損益表番号一ないし四九に記載の銘柄及び数量の株式を現物取引によって売却し、損益表番号五〇ないし五二に記載の銘柄及び数量の転換社債を売却したこと、それら株式及び社債の売却価額が損益表番号一ないし五二に記載のとおりであること、原告俊の同年中の株式の信用取引の決済損益が別表5-1ないし5-3の「信用取引」欄記載のとおりであったことは認めるが、同年中の原告俊の株式の売買回数、損益表番号一ないし五二に記載の株式及び転換社債の取得価額及び損益金額については、いずれも否認する。

原告俊の昭和六一年中の株式の売買回数は三八回である。

(三)  同1(五)ないし(七)は争う。

2(一)  抗弁2(一)ないし(三)は認める。

(二)  同2(四)のうち、原告俊が昭和六二年中に大和證券新宿支店に委託して別表2-1ないし2-3のとおり株式の売買を行ったこと、原告俊が同年中に損益表番号五三ないし九三に記載の銘柄及び数量の株式を現物取引により同記載の売却価額で売却したこと、原告俊の同年中の株式の信用取引の決済損益が別表6-1及び6-2の「信用取引」欄記載のとおりであったことは認めるが、同年中の原告俊の株式の売買回数、損益表番号五三ないし九三に記載の株式の取得価額及び損益金額については、いずれも否認する。

原告俊の昭和六二年中の株式の売買回数は三六回である。

(三)  同2(五)ないし(七)は争う。

3(一)  抗弁3(一)ないし(三)は認める。

(二)  同3(四)のうち、原告俊が昭和六三年中に大和證券新宿支店に委託して別表3-1及び3-2のとおり株式の売買を行ったこと、同年中に三洋証券新宿支店において重光名義で別表3-3のとおり株式の売買が行われたこと、同年中に和光証券新宿支店において信之名義で別表3-4のとおり株式の売買が行われたこと、原告俊が同年中に損益表番号九四ないし一一〇に記載の銘柄及び数量の株式を現物取引により同記載の売却価額で売却したこと、重光及び信之の名義による株式の現物取引により損益表番号一一一ないし一一八に記載の銘柄及び数量の株式が同記載の売却価額で売却されたこと、原告俊の同年中の株式の信用取引の決済損益が別表7-1及び7-2の「信用取引」欄記載のとおりであったこと、重光及び信之の名義による株式の信用取引の決済損益が別表7-3及び7-4の「信用取引」欄記載のとおりであることは認めるが、同年中の原告俊の株式の売買回数、損益表番号九四ないし一一八に記載の株式の取得価額及び損益金額、重光及び信之の名義による株式の売買が原告俊の行った取引であることについては、いずれも否認する。

原告俊の昭和六三年中の株式の売買回数は二八回であるし、重光及び信之の名義の取引は、同人らが自発的な意思によって行ったものであり、原告俊の取引ではない。

(三)  同2(五)ないし(七)は争う。

六  原告弘子の請求に係る抗弁に対する認否

1  抗弁1及び2は認める。

2  同3のうち、原告弘子が昭和六二年中に大和證券池袋支店に委託して別表4のとおり株式の売買を行ったこと、原告弘子が同年中に別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六に記載の銘柄及び数量の株式を現物取引により同記載の売却価額で売却したこと、原告弘子の同年中の株式の信用取引の決済損益が別表8の「信用取引」欄記載のとおりであったことは認めるが、同年中の原告弘子の株式の売買回数、別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六に記載の株式の取得価額及び損益金額については、いずれも否認する。

原告弘子の昭和六二年中の株式の売買回数は四三回である。

七  原告らの主張

1  株式の売買回数と非課税所得

原告らの株式の売買は、大和證券新宿支店又は池袋支店に対し、毎週月曜日に一週間分の取引を一括して、売りは高く、買いは安くした指値で売買するように注文をするという委託方法によって実行されたのであり、株式の売買回数を委託契約の個数を基準に数えた場合には、原告俊の売買回数は、昭和六一年分が三八回、昭和六二年分が三六回、昭和六三年分が二八回となり、原告弘子の売買回数(昭和六二年分)は四三回となり、いずれも当時の所得税法施行令二六条二項所定の売買回数(昭和六一年分及び昭和六二年分について五〇回、昭和六三年分について三〇回)を下回るから、原告らの有価証券の売却益は課税所得とはならない。

2  売却益の所得区分と理由付記の不備等

原告らは、昭和六一年ないし昭和六三年の三年間にわたり、売買株数にして二〇〇万株以上、売買金額にして一七億円近い株式の売買を行ったのであり、その取引は社会通念上事業とみられる規模のものであった。そして、原告らは、肩書所在地などを事業所とし、業として株式の取引を行っていたのであって、原告らの有価証券の売却益は所得税法二七条所定の事業所得に該当する。

原告らは、いずれも青色申告の承認を受けたものであるから、その事業所得につき更正を行う場合には更正通知書に理由を付記する必要があるにもかかわらず、本件の各更正についてはその理由が付記されていなかったし、また、原告らに対しては、異議申立てをせずに直ちに審査請求ができる旨を教示することなく更正が行われた。

したがって、原告らに対する各更正は、いずれも所得税法所定の手続に違背して行われた違法なものである。

3  必要経費

原告弘子は、昭和六二年四月二七日、住友銀行池袋支店から、五〇〇〇万円を年利五・八パーセントで借り受け、そのうち一〇〇〇万円を原告弘子の株式の購入に充て、残余の四〇〇〇万円のうち一三〇〇万円を同年四月二八日に、二七〇〇万円を同年五月二七日に、それぞれ原告俊の株式の購入資金として貸し渡した。

昭和六二年中に支払った右借入金の利息三七五万五一八三円のうち、四四万九六八五円(後記の原告俊の負担額一七九万八七四三円の四分の一に相当する額)は、原告弘子が株式の売却益を得るために要した必要経費である。

また、原告俊は、昭和五七年一〇月二九日、北海道拓殖銀行新宿支店から九五〇万円を年利八・二七二パーセントで借り受け、昭和五八年五月七日、同支店から七五〇万円を年利八・七パーセントで借り受け、昭和六二年一二月一八日これらの借入金を返済したうえで、同月二二日、同支店から三九〇〇万円を借り受け、それら借入金をいずれも株式の購入資金に充てた。

原告俊は、北海道拓殖銀行からの右借入金の元利金を弁済したほか、原告弘子と共同して住友銀行からの右借入金の元利金を弁済したところ、原告俊が昭和六一年中に支払った借入金の利息額二三万七三五三円(北海道拓殖銀行分)、昭和六二年中に支払った借入金の利息額二〇三万一二九六円(北海道拓殖銀行分二三万二五五三円、住友銀行分一七九万八七四三円)、昭和六三年中に支払った借入金の利息額二七七万二四八四円(北海道拓殖銀行分二二〇万六八五三円、住友銀行分五六万五六三一円)は、係争各年分の株式の売却益を得るために要した必要経費である。

さらに、原告らは、株式の取引のために、交通費(定期券代金)として各自年間四万四五〇〇円、通信費(電話代)として三万円を支出したほか、証券会社へ名義書換料及び取引口座管理料をそれぞれ支払っており、これらは必要経費として所得金額算出の際に控除すべきであるし、原告らが保有する株式の評価損も所得金額算出の際に控除されるべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一原告らに対する課税処分等の経過

請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

第二原告らの有価証券の売却益の課税所得性について

一  原告俊が係争各年中に大和證券新宿支店に委託して、別表1-1ないし1-4、別表2-1ないし2-3、別表3-1及び3-2のとおり株式及び転換社債の売買を行ったこと、昭和六三年中に三洋証券新宿支店において重光の名義で別表3-3のとおり株式の売買が行われたこと、同年中に和光証券新宿支店において信之の名義で別表3-4のとおり株式の売買が行われたこと、原告弘子が昭和六二年中に大和證券池袋支店に委託して別表4のとおり株式の売買を行ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法九条一項一一号イ及び昭和六三年政令第三六二号による削除前の所得税法施行令二六条一項によれば、営利を目的とした継続的行為と認められる取引による売却益は課税所得とされており、昭和六一年分及び昭和六二年分の所得税に関しては、当該年中の株式の売買回数が五〇回以上であって、その売買株数が二〇万以上である場合に(昭和六二年政令第三五六号による改正前の同令二六条二項)、昭和六三年分の所得税に関しては、当該年中の株式の売買回数が三〇回以上であって、その売買株数が一二万以上である場合に(昭和六三年政令第三六二号による削除前の同令二六条二項)、それぞれ有価証券の売却益は営利を目的とした継続的行為によるものとみなされ、それら取引による売却益は課税所得とされている。

三  そこで、係争各年中の原告らの株式の売買回数について検討するに、原告らは、いずれも証券会社に売買の委託を行うことによって証券市場で株式を売買しているのであるから、このような場合には、前記の所得税法施行令二六条二項が規定する株式の売買回数は、原告らの注文によって成立する委託契約の個数によって数えるのが相当である。

1  原告俊について

いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証の一ないし二〇一、第五号証の一ないし一七二、第六号証の一ないし一七(いずれも大和證券新宿支店における原告俊の株式注文伝票等)によれば、原告俊は、〈1〉昭和六一年中の別表1-1ないし1-4に記載の株式の売買を行うに際し、別表13-1ないし13-4の「受注月日」及び「受注時間」欄記載のとおりの日時に(ただし、約定月日八月一四日のキャビン株の約定月日及び受注月日はいずれも八月一五日であり、約定月日八月一四日の三菱電機株の受注月日は八月一二日であり、約定月日九月二九日の三菱電機株の受注時間は九時一三分であり、約定月日一二月五日の三洋電機株の受注月日は一二月二日である。)、〈2〉昭和六二年中の別表2-1ないし2-3の株式の売買を行うに際し、別表14-1ないし14-3の「受注月日」及び「受注時間」欄記載のとおりの日時に(ただし、約定月日六月二六日の日本ビクター株の受注月日は六月二四日である。)、〈3〉昭和六三年中の別表3-1のうち約定月日が五月一六日以降の株式の売買及び別表3-2の株式の売買を行うに際し、別表15-1及び15-2の「受注月日」及び「受注時間」欄記載のとおりの日時に(ただし、約定月日六月一日の鐘紡株の受注月日は五月三〇日である。)、それぞれ、株式の銘柄、売り又は買いの別、数量、信用取引又は現物取引の別を定めて、大和證券新宿支店に売買の注文を行い、同支店が注文に従って証券市場において株式を売買した事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、株式注文伝票によって受注日時が判明した株式の売買は、いずれもその売買の都度、株式の銘柄、売り又は買いの別、数量、信用取引又は現物取引の別を定めて注文を発する方法によって、証券会社に委託して行われたものであり、また、昭和六三年中の取引のうち五月一五日までの株式の売買については、株式注文伝票が提出されていないため受注日時が明らかでないが(弁論の全趣旨によれば、それらの株式注文伝票は既に証券会社において廃棄していることが認められる。)、それらの売買の注文がそれ以前と異なる方法によってされたとは考えられず、それらの株式の売買も、右と同様に、その売買の都度、株式の銘柄等を定めて注文する方法によって行われたものと認めるのが相当である。

そうすると、同一の日時に同一の売買形態によって複数の銘柄の株式の売買が一括して注文がされている場合を一個の委託契約とみるほかは、実行された株式の売買の回数だけ委託契約が行われたものであり、かかる委託契約の個数を基準として認められる原告俊の株式の売買回数は、大和證券新宿支店における取引分だけで、別表1-1ないし1-4、2-1ないし2-3、3-1及び3-2のとおり、昭和六一年中が一八一回(その売買株数は一〇一万二〇〇〇株)、昭和六二年中が一五三回(その売買株数は六四万七四五〇株)、昭和六三年中が五八回(その売買株数は三四万一一〇〇株)であったと認めることができる。

2  原告弘子について

原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証の一ないし四(大和證券池袋支店における原告弘子の株式注文伝票)によれば、原告弘子は、別表4(昭和六二年分)のうち約定月日を一〇月一四日、同月二〇日、同月二一日及び同月二三日とする株式の売買を行うに際し、別表16の「受注月日」及び「受注時間」欄記載のとおりの日時に、株式の銘柄、売り又は買いの別、数量、信用取引又は現物取引の別を定めて、大和證券池袋支店に売買の注文を行い、証券市場において株式を売買した事実が認められるが、昭和六二年中におけるその余の株式の売買については、株式注文伝票が提出されておらずその受注日時が明らかでない(弁論の全趣旨によれば、それらの株式注文伝票は既に証券会社において廃棄していることが認められる。)。しかし、原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の一ないし一七によれば、原告弘子は、昭和六三年中にも大和證券池袋支店に委託して別表17記載のとおり株式の売買をしており、右売買に際しては、同表の「受注月日」及び「受注時間」欄記載のとおりの日時に、前記と同様に、株式の銘柄等を定めて売買の注文をし、株式の売買がされているのであって、昭和六二年中の取引がこれと異なる注文方法で行われていたと窺われるような事情もないことからすると、原告弘子の昭和六二年中の株式の売買は、その受注日時が判明していない売買を含め、すべて、その売買の都度、株式の銘柄等を定めて注文を発する方法によって、証券会社に委託して行われたものと認めるのが相当である。

そうすると、原告俊の場合と同様、同一の日時に同一の売買形態によって複数の銘柄の株式の売買が一括して注文がされている場合を一個の委託契約とみるほかは、実行された株式の売買の回数だけ委託契約が行われたものであり、かかる委託契約の個数を基準として認められる原告弘子の株式の売買回数は、別表4のとおり、五九回(その売買株数は二九万七二〇〇株)であったと認めることができる。

3  したがって、係争各年分の原告らの有価証券の売却益は、いずれも営利を目的とした継続的行為と認められる有価証券の譲渡行為によって発生した所得とみなされ、課税所得となるというべきである。

第三原告俊の借名取引について

一  いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一一号証の一五、第二三号証、第二四号証の一ないし七、第二五号証、第二九号証、第三三号証の一ないし七、第三五号証、いずれも成立に争いのない乙第二一、第二二号証、第二七、第二八号証、第三〇ないし第三二号証、第三六号証、第三八号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

1  原告俊は、昭和六三年一月六日、大和證券新宿支店の同原告名義の取引口座から五〇〇万円を小切手により出金し、この小切手を入金することにより三洋証券新宿支店の重光名義の口座を開設し、その際、自ら重光名義の同日付け「口座設定及び印鑑登録申込書」を作成してこれを同支店に提出した(右小切手は、翌日、同支店の預金口座にて取り立てられている。)。

2  重光は昭和三三年生まれの原告らの次男であるところ、原告俊は、昭和六三年一月一二日付けで、「私が、貴社との間に行う有価証券売買委託取引及びこれに関連する取引について、下記の名前及び住所(新宿区大久保三丁目一〇番一-九〇九号乗金重光)を使用いたしたいので届出します。つきましては、下記名前による取引は、すべて私がその責任を負い、貴社にはご迷惑をかけません。」との文面の「取引名使用届出書」を三洋証券新宿支店に提出した。

3  原告俊は、昭和六三年一月一二日、大和證券新宿支店の同原告名義の取引口座から、五〇〇万円を小切手により出金し、右小切手を入金することにより和光証券新宿支店の信之名義の口座を開設し、その際、自ら信之名義の同日付け「取引口座(保護預り口座)設定申込書及び届出書」を作成して同支店に提出した(右小切手は、翌日、和光証券新宿支店預金口座にて取り立てられている。)。

4  信之は、昭和三一年生まれの原告らの長男であり、昭和六一年八月一日、東京都新宿区大久保三丁目一〇番一-九〇九号から神奈川県藤沢市辻堂新町一丁目二番八-五〇三号へ転出し、同月一一日その旨の住民登録の変更も行っており、昭和六三年当時、信之名義の右「取引口座(保護預り口座)設定申込書及び届出書」に記載された東京都新宿区大久保三丁目一〇番一-九〇九号には居住していない。

5  大和證券新宿支店において原告俊名義で購入された株式の一部は、三洋証券新宿支店において重光名義で、あるいは、和光証券新宿支店の信之名義で、現物取引により売却されている。

二  右事実によれば、三洋証券新宿支店における重光名義の株式の売買及び和光証券新宿支店における信之名義の株式の売買は、いずれも、原告俊が、自らの資金及び株式を投じ、自己の取引名として息子である重光や信之の名前を使用して行ったものと認められ、原告俊の計算による売買であることが明らかである。

第四原告らの有価証券の売却益の所得の区分

一  原告らの有価証券の売却益が、所得税法所定の利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得に該当しないことは明らかであり、また、有価証券の売買が反復継続して行われていることからすると、その売却益は所得税法所定の譲渡所得及び一時所得にも該当しない。

二  そこで、原告らが反復継続して行った有価証券の売買が、事業所得を生ずる「事業」に該当するかどうかについて検討する。

所得税法二七条一項は、事業所得につき、「農業、漁業・・・その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得」をいうと規定し、これを受けて同法施行令六三条は、事業の範囲につき、各種の具体的な業種を掲記したうえ(一号ないし一一号)、そのほかに「対価を得て継続的に行う事業」(同条一二号)と定めている。原告らの行っていた有価証券の売買が、右一号ないし一一号掲記の業種のいずれにも該当しないことは明らかであるから、問題は、それが右一二号にいう「対価を得て継続的に行う事業」に当たるかどうかであるところ、ここでいう「事業」とは、経営者が、人的・物的設備を整え、労力を投じ、営利を目的として有償の取引を反復継続することによって運営する業務であって、社会通念上、事業として客観性を有するものを指すものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第七ないし第九号証の各一ないし三、第一〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告俊は、係争各年当時、日本フランチャイズ総合リース株式会社に勤務して給与を得ていた者であること、原告弘子は、係争各年当時、肩書住所地で東京海上火災保険株式会社の損害保険代理店を経営していたこと、原告らは、係争各年当時、右のほかにも学習塾や貸家を経営していたこと、原告らは、有価証券の売買に関して、使用人を置くこともなく、また、事業者が通常備え付けるべき現金出納帳などの帳簿も作成していないし、所得税法二二九条所定の開業届を税務署長に提出していなかったことが認められ、右によれば、原告らの有価証券の売買は、会社勤務、損害保険代理店や学習塾などの経営のかたわら行われていたものであって、それ以上に、人的・物的設備を整えた独立の事業経営としてその売買業務を行っていたものとみることは困難であるから、その売却益は、事業によって生じた所得ということはできない。

三  そうすると、係争各年中に原告らに生じた有価証券の売却益は、事業所得ではなく、雑所得として課税所得となるというべきである。

したがって、原告らの有価証券の売却益が事業所得に該当することを前提に、原告らに対する各更正通知書の理由付記の不備や審査請求が選択できる旨の教示を欠いた違法をいう原告らの主張は、その前提を欠き理由がない。

第五原告らの雑所得の金額について

一  原告俊の昭和六一年分の雑所得の金額

1  株式の信用取引に係る収入金額

原告俊の昭和六一年中の株式の信用取引の決済損益が別表5-1ないし5-3の「信用取引」欄記載のとおりであったことは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の信用取引に係る収入金額は、合計一六三七万六三七九円である。

2  株式の現物取引及び転換社債に係る収入金額

原告俊が昭和六一年中に損益表番号一ないし四九に記載の銘柄及び数量の株式を現物取引によって売却し、損益表番号五〇ないし五二に記載の銘柄及び数量の転換社債を売却したこと、それら株式及び転換社債の売却価額が損益表番号一ないし五二に記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の株式の現物取引及び社債に係る収入金額は、合計一億七一三七万六五七三円である。

3  株式の現物取引及び転換社債に係る必要経費

いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一一号証の一ないし二〇、第一九号証、第二四号証の一ないし七、第三三号証の一ないし七、第三九号証の一ないし二五、第四〇号証、第四二号証の一、二、成立に争いのない乙第四一号証によれば、原告俊は、別表9-1ないし9-14に記載の銘柄の株式又は転換社債を、その「約定日」欄に記載の日に(ただし、別表9-4の沖電機株の欄の上段の約定日は昭和五九年一一月一日であり、別表9-5の東芝株の欄の下から四段目の約定日は昭和六一年九月六日であり、別表9-6の三菱重工業株の欄の最上段の約定日は昭和六〇年一二月一三日であり、同表の東北電力株の欄の下から四段目の約定日は昭和六二年八月二六日であり、別表9-7の川崎製鐵株の欄の上から二段目の約定日は昭和五九年一〇月一六日であり、別表9-10のサンゲツ株の欄の上段の約定日は昭和六一年一二月二日であり、別表9-13のミネベヤ株の欄の上から八段目及び九段目の約定日がそれぞれ昭和六〇年一〇月二六日及び昭和六一年六月一二日である。)、その「買入れ」欄に記載の金額により(ただし、別表9-3の日本鋼管株の欄の上から二段目の金額は一五四万二二四〇円であり、別表9-9の伊藤忠株の欄の最下段の単価は六四二円であり、別表9-10の日本鉱業株の欄の上から二段目の単価は四七〇円である。)、現物買い、信用現引き又は増資によって取得した事実が認められる。

ところで、有価証券の譲渡による雑所得の金額を算出するには、売却に係る有価証券の取得回数が一回だけの場合には右認定した取得価額がそのまま必要経費となるが、同一銘柄の有価証券を二回以上にわたって取得している場合には、所得税法四八条三項、所得税法施行令一一八条により、総平均法に準ずる方法に基づいて算出した取得平均単価(小数点五位を四捨五入)により計算した金額(円未満を四捨五入)が必要経費となるものである。

そうすると、原告俊が係争年分中に現物取引で譲渡した株式及び転換社債の必要経費となる取得価額は、別表19記載の損益表番号に係るものが同表記載の取得価額であると認められるほかは、損益表番号一ないし一一八に記載のとおりであることが計算上明らかである。

したがって、原告俊が昭和六一年中に売却した損益表番号一ないし五二に記載の株式及び転換社債に係る必要経費は合計一億六〇二九万一〇〇五円である。

4  右1及び2の合計額から右3の金額を控除して算出される昭和六一年分の株式及び転換社債の譲渡による雑所得の金額は、少なくとも被告主張の二七四六万一九三七円を下るものではない。

二  原告俊の昭和六二年分の雑所得の金額

1  株式の信用取引に係る収入金額

原告俊の昭和六二年中の株式の信用取引の決済損益が別表6-1及び6-2の「信用取引」欄記載のとおりであったことは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の信用取引に係る収入金額は、合計八四九万七〇八四円である。

2  株式の現物取引に係る収入金額

原告俊が昭和六二年中に損益表番号五三ないし九三に記載の銘柄及び数量の株式を同記載の売却価額で売却したことは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の株式の現物取引に係る収入金額は、合計一億六六八〇万〇一四四円である。

3  株式の現物取引に係る必要経費

前記一の3で認定説示したとおりであるから、原告俊が昭和六二年中に売却した損益表番号五三ないし九三に記載の株式に係る必要経費は合計一億五三八九万四〇三三円である。

4  右1及び2の合計額から右3の金額を控除して算出される昭和六二年分の株式の譲渡による雑所得の金額は、二一四〇万三一九五円である。

三  原告俊の昭和六三年分の雑所得の金額

1  株式の信用取引に係る収入金額

原告俊の昭和六三年中の株式の信用取引の決済損益が別表7-1及び7-2の「信用取引」欄記載のとおりであること、重光及び信之の名義による株式の信用取引の決済損益が別表7-3及び7-4に記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、重光及び信之の名義による株式の売買が原告俊の取引であることは前記認定のとおりであるから、原告俊の同年中の信用取引に係る収入金額は、合計一四二〇万三三六九円である。

2  株式の現物取引に係る収入金額

原告俊が昭和六三年中に損益表番号九四ないし一一〇に記載の銘柄及び数量の株式を同記載の売却価額で売却したこと、重光及び信之の名義の現物取引により損益表番号一一一ないし一一八に記載の銘柄及び数量の株式が同記載の売却価額で売却されたことは、当事者間に争いがなく、重光及び信之の名義による株式の売買が原告俊の取引であることは前記認定のとおりであるから、原告俊の同年中の株式の現物取引に係る収入金額は、合計八九六〇万五九三四円である。

3  株式の現物取引に係る必要経費

前記一の3で認定説示したとおりであるから、原告俊が昭和六三年中に売却した損益表番号九四ないし一一八に記載の株式に係る必要経費は合計八四二九万九〇五二円である。

4  右1及び2の金額から右3の金額を控除した昭和六三年分の株式の譲渡による雑所得の金額は、少なくとも被告主張の一六九九万一六〇七円を下るものではない。

四  原告弘子の雑所得の金額

1  株式の信用取引に係る収入金額

原告弘子の昭和六二年中の株式の信用取引の決済損益が別表8の「信用取引」欄記載のとおりであったことは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の信用取引に係る収入金額は、合計一七七万九七八三円である。

2  株式の現物取引に係る収入金額

原告弘子が昭和六二年中に別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六に記載の銘柄及び数量の株式を同記載の売却価額で売却したことは当事者間に争いがなく、したがって、同年中の株式の現物取引に係る収入金額は、合計九四四九万五〇四三円である。

3  株式の現物取引に係る必要経費

いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一三号証の一ないし一一、第一七、第一八号証によれば、原告弘子は、別表10-1ないし10-3に記載の銘柄の株式を、その「約定日」欄に記載の日に(ただし、別表10-1の佐藤工業株の欄の最上段の約定日は昭和六二年四月二八日であり、別表10-2のNTT株の欄一段目及び二段目の約定日はそれぞれ昭和六二年九月二五日及び昭和六二年九月二九日であり、同表のマツダ株の欄の最上段の約定日は昭和六一年三月三一日である。)、その「買入れ」欄に記載の金額により、現物買い、信用現引き又は増資によって取得した事実が認められる。

前記一の3で説示したとおり、売却に係る株式の購入回数が一回だけの場合には、右認定した取得価額がそのまま必要経費となり、同一銘柄の株式を二回以上にわたって取得している場合には、総平均法に準ずる方法に基づいて算出した取得平均単価(小数点五位を四捨五入)により計算した金額(円未満を四捨五入)が必要経費となるところ、別表8の「現物取引」欄の番号一ないし二六に記載の株式の取得価額は、番号八及び一〇に記載の株式の取得価額がいずれも三六一万七五二一円、番号一三の株式の取得価額が三六一万八一四五円であると認められるほかは、同表のとおりであることが計算上明らかであるから、原告弘子の昭和六二年中の株式の現物取引に係る必要経費は合計八九五一万八六九七円である。

4  右1及び右2の合計額から右3の金額を控除して算出される昭和六二年分の株式の譲渡による雑所得の金額は、六七五万六一二九円である。

五  原告ら主張の必要経費について

1  前掲乙第一一号証の一〇及び一四、第一三号証の六、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第二一号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告弘子は、昭和六二年四月二七日、住友銀行池袋支店から五〇〇〇万円を借り入れたこと、翌二八日、大和證券池袋支店の原告弘子の取引口座に一〇〇〇万円が振込入金され、同年五月六日、大和證券新宿支店の原告俊の取引口座に一〇〇〇万円が振込入金されたこと、原告俊は、同年一二月二二日、北海道拓殖銀行新宿支店から三九〇〇万円を借り入れたこと、翌二三日、大和證券新宿支店の原告俊の取引口座に四〇〇〇万円が振り込まれていることが認められる。

原告らは、右借入金を株式の購入に充てたから、その支払利息は株式の売却益の金額の計算上必要経費となる旨主張しているが、右借入金の額と振込額とは金額が異なるうえ、原告らの取引口座には右振込前からの繰越残高があり、右借入金のうちのいくらが株式の購入資金に充てられたのかが必ずしも明らかでないし、仮に、右借入金の全額が株式の購入資金に充てられたとしても、右借入金によって購入した株式及びその購入金額、当該株式が売却された月日、当該株式の購入から売却までの保有日数に係る支払利息の額を個別に特定することによって、初めて、売却に係る株式の取得価額として必要経費に算入される支払利息の額が判明することになるところ、本件においては、そのような事項が全く明らかとなっていないから、原告ら主張の借入金利子をそのまま係争各年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

2  また、前掲乙第一一号証の二、四、八、一二、一五、一九及び二〇によれば、原告俊は、大和證券新宿支店に対し、昭和六一年中に名義書換料二〇〇〇円、口座管理料三〇〇〇円、昭和六二年中に名義書換料九二五〇円、口座管理料三〇〇〇円、昭和六三年中に名義書換料一五〇〇円、口座管理料三〇〇〇円を支払ったこと、原告弘子は、大和證券池袋支店に対し、昭和六二年中に口座管理料三〇〇〇円を支払ったことが認められるが、右名義書換料が係争各年中に売却されたどの株式に係るものであるのかが明らかでなく、また、右口座管理料もその全額が係争各年中に売却された株式に係る必要経費といえるかどうかが疑問であり、その支払があったという事実だけから、直ちにそれらが係争各年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるものと速断することはできない。

3  なお、原告ら主張の通信費、交通費については、その支払の時期及び金額を的確に認めるに足りる証拠がないから、原告らが主張するところをもって、係争各年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないし、その主張する株式の評価損のようなものは、雑所得に係る株式譲渡による収入金額から控除されるべき必要経費となる性質のものでないことはいうまでもない。

4  したがって、原告らの必要経費に関する主張はいずれも失当である。

第六課税処分の適法性について

一  昭和六一年分更正

前記認定の雑所得の金額に、当事者間に争いのない原告俊の昭和六一年中の不動産所得の金額(五一万八七五二円)、配当所得の金額(五九万一五〇〇円)及び給与所得の金額(一九九万一〇〇〇円)を加えた同原告の同年中の総所得金額は、三〇五六万三一八九円であるから、昭和六一年分更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

前掲乙第七号証の一ないし三、原本の存在及び成立に争いのない乙第二〇号証の一ないし三によれば、原告俊の昭和六一年分の所得控除額は一三五万六〇二四円であること(原告俊の確定申告に係る一六八万六〇二四円から配偶者控除額三三万円を差し引いたもの)、源泉徴収税額は一五万円であること、原告弘子の同年分の配当所得の金額は四七万九〇六〇円であることが認められ、昭和六一年分更正に係る所得税額は、同更正に係る総所得金額を基礎にして、資産合算課税の特例を適用し、所得税法に従い適法に算出されたものと認められる。

二  昭和六二年分更正

前記認定の雑所得の金額に、当事者間に争いのない原告俊の昭和六二年中の不動産所得の金額(三六万六二四九円)、配当所得の金額(四〇万九〇〇〇円)及び給与所得の金額(二二三万一四〇〇円)を加えた同原告の同年中の総所得金額は、二四四〇万九八四四円であるから、昭和六二年分更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

前掲乙第八号証の一ないし三、第一〇号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、原告俊の昭和六二年分の所得控除額は一三八万四六一四円であること(原告俊の確定申告に係る一八四万七一一四円から配偶者控除額三八万円と配偶者特別控除額八万二五〇〇円を差し引いたもの)、源泉徴収税額は一二万三三〇〇円であること、原告弘子の同年分中の配当所得の金額は三九万二五〇〇円であることが認められ、昭和六二年分更正に係る所得税額は、同更正に係る総所得金額を基礎にして、資産合算課税の特例を適用し、所得税法に従い適法に算出されたものと認められる。

三  昭和六三年分更正

前記認定の雑所得の金額に、当事者間に争いのない原告俊の昭和六三年中の不動産所得の金額(四四八五円)、配当所得の金額(二二万七二五〇円)及び給与所得の金額(一九五万一八〇〇円)を加えた同原告の同年中の総所得金額は、一九一七万五一四二円であるから、昭和六三年分更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

前掲乙第九号証の一ないし三によれば、原告俊の昭和六三年分の所得控除額は一三六万六八〇九円であり、源泉徴収税額は九万三七八二円であることが認められ、昭和六三年分更正に係る所得税額は、同更正に係る総所得金額を基礎にして、所得税法に従い適法に算出されたものと認められる。

四  原告弘子に対する更正

前記認定の雑所得の金額に、当事者間に争いのない原告弘子の昭和六二年中の配当所得の金額(三九万二五〇〇円)及び給与所得の金額(一三四万七〇〇〇円)を加えた同原告の同年中の総所得金額は、八四九万五六二九円であるから、原告弘子に対する更正には所得金額を過大に認定した違法はない。

前掲乙第一〇号証の一、二によれば、原告弘子の昭和六二年分の所得控除額は七四万三〇〇〇円であり、源泉徴収税額は一九万三一〇〇円であることが認められ、原告弘子に対する更正に係る所得税額は、同更正に係る総所得金額を基礎にして、資産合算課税の特例を適用し、所得税法に従い適法に算出されたものと認められる。

五  原告らに対する賦課決定

原告らに対する賦課決定は、原告らが右各更正によって新たに納付すべきことになる所得税額を基礎として(なお、原告弘子に対する更正によって新たに納付すべき所得税額は一三二万円であり、被告が、本訴において、これを一四五万円として原告弘子の過少申告加算税額を計算しているのは失当である。)、国税通則法に従い適法に算出された過少申告加算税に相当する額を賦課するものであって、いずれも適法である。

第七結論

以上の次第で、原告らに対する本件の課税処分はいずれも適法であり、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官武田美和子は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 佐藤久夫)

別表1-1(原告乘金俊の昭和61年分)

売買明細表

別表1-2(原告乘金俊の昭和61年分)

売買明細表

別表1-3(原告乘金俊の昭和61年分)

売買明細表

別表1-4(原告乘金俊の昭和61年分)

売買明細表

別表2-1(原告乘金俊の昭和62年分)

売買明細表

別表2-2(原告乘金俊の昭和62年分)

売買明細表

別表2-3(原告乘金俊の昭和62年分)

売買明細表

別表3-1(大和證券における原告乘金俊の昭和63年分)

売買明細表

別表3-2(大和證券における原告乘金俊の昭和63年分)

売買明細表

別表3-3(三洋証券における原告乘金俊の昭和63年分)

売買明細表

別表3-4(和光証券における原告乘金俊の昭和63年分)

売買明細表

別表4(原告乘金弘子の昭和62年分)

売買明細表

別表5-1(原告乘金俊の昭和61年分)

株式売買等損益表

別表5-2(原告乘金俊の昭和61年分)

株式売買等損益表

別表5-3(原告乘金俊の昭和61年分)

株式売買等損益表

別表6-1(原告乘金俊の昭和62年分)

株式売買等損益表

別表6-2(原告乘金俊の昭和62年分)

株式売買等損益表

別表7-1(大和證券における原告乘金俊の昭和63年分)

株式売買等損益表

別表7-2(大和證券における原告乘金俊の昭和63年分)

株式売買等損益表

別表7-3(三洋証券における原告乘金俊の昭和63年分)

株式売買等損益表

別表7-4(和光証券における原告乘金俊の昭和63年分)

株式売買等損益表

別表8(原告乘金弘子の昭和62年分)

株式売買等損益表

別表9-1(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-2(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-3(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-4(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-5(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-6(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-7(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-8(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-9(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-10(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-11(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-12(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-13(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表9-14(原告乘金俊分)

売却原価計算書

別表10-1(原告乘金弘子分)

売却原価計算書

別表10-2(原告乘金弘子分)

売却原価計算書

別表10-3(原告乘金弘子分)

売却原価計算書

別表11 資産合算のあん分税額の計算(昭和61年分)

別表12 資産合算のあん分税額の計算(昭和62年分)

別表13-1(原告乘金俊の昭和61年分)

取引日時明細表

別表13-2(原告乘金俊の昭和61年分)

取引日時明細表

別表13-3(原告乘金俊の昭和61年分)

取引日時明細表

別表13-4(原告乘金俊の昭和61年分)

取引日時明細表

別表14-1(原告乘金俊の昭和62年分)

取引日時明細表

別表14-2(原告乘金俊の昭和62年分)

取引日時明細表

別表14-3(原告乘金俊の昭和62年分)

取引日時明細表

別表15-1(原告乘金俊の昭和63年分)

取引日時明細表

別表15-2(原告乘金俊の昭和63年分)

取引日時明細表

別表16(原告乘金弘子の昭和62年分)

取引日時明細表

別表17(原告乘金弘子の昭和63年分)

取引日時明細表

別表18 原告乘金弘子の過少申告加算税の計算の対象となる納付税額の計算

別表19

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